2024年2月28日20:00~21:30
がんになってもだれもが自分らしく働ける社会を目指して②
対話看護師が知っておきたいこと ~がん看護就労支援の視点から~
というテーマで、対話看護師さん向けのイベントを開催しました。
がんになったからと言って「これまで働いてきた仕事をやめなければいけない」「働くことはあきらめないといけない」なんてことはありません。今回のイベントでは、がん経験者の継続就労を支援する団体「がんと働く応援団」代表理事の吉田ゆりさんを迎えて「がん患者が働き続けることを支援するために知っておきたいこと」を伺いました。ここでは本イベントで吉田さんが話されたことを中心に紹介します。
吉田ゆりさんプロフィール
1981年東京出身。高校時代はカナダで過ごしキャリアカウンセリングに出会う。千葉大学文学部卒業後、人事として採用~育成に携わる。育児と仕事の両立の壁に直面し退職。2018年(37歳)に卵巣がん発覚。がんになったことで「がん=死ではない」と気が付き「がんと働く応援団」を設立。がん経験者の継続就労を支援している。既婚、2児の育児、義母の生活介助中。
●がんは一人で抱え込まずに
今や生涯でがんになる確率は2人に1人。4人家族でだれもがんにかからない確率は10家族に1家族。それほどがんは私たちに身近な病気になっています。アンケートによれば働きながらがん治療をするときに「両立に苦労した」という人は半分以上の54%。大きな理由としては職場にその風土がないということ。具体的には「上司、同僚の理解・支援不足」「無理解、誤解による声掛け」「相談できない雰囲気」「人事からの支援、理解不足」などのようです。
ではがん患者の周りにはどんな人たちがいるでしょうか。いちばんに思い浮かぶのは主治医、そして上司・同僚……。がん告知を受けて治療のことで頭がいっぱいだとそこで止まってしまうことが多いかもしれません。しかし、他にも人事・労務担当者、産業医・産業保健スタッフ、相談支援センター、そしてその他の支援者として「がんと働く応援団」のような団体もがあります。一人で抱え込まずに、こういった周囲の使える社会資源をうまく使うことにも目を向けてみましょう。そこには医師や看護師だけではなくキャリアコンサルタント(国家資格)、産業カウンセラー、臨床心理士・公認心理師などさまざまな職種のプロフェッショナルが、それぞれの視点から仕事とがん治療の両立についてアドバイスやヒントをくれるはずです。目指すのは「がんになっても誰もが自分らしく働ける社会」です。
事前に集めた吉田さんへの質問に答える形で行われました。
(司会進行:Tomopiia看護師 川邉舞衣)
○対話される方の中には「なかなか周囲に言えない」
「つらいときにサボっているのではないかと思われているのではないか」と話す方がいます。
こう相談されるとつい「大丈夫ですよ」と言ってしまいがちですが、その前にまず受け止めること。なぜそう感じるのかを聞いてみましょう。一方的にアドバイスはしないことです。
○年代や世代によって悩みは変わってくるのでしょうか?
またとくに多い悩みなどあれば教えてください。
人はそれぞれの年齢・世代でもっている役割が違います。また一人ひとりも違いますから年齢や世代で一括りにするのではなく、目の前の「その人」を見ることがたいせつ。傾向として相談が多いのは男性よりも女性、30~50歳くらい、職業では看護師さんです。医療の現場だとかえって「周囲の人からドライな反応がある」といった相談があるようです。
○医療相談ではない枠組みで、看護師が話をうかがうことならではの強みやサポートにはどんなものがありますか?
病院の中で医師や看護師と話をするのは一般の人にはハードルが高いものです。しかし「対話看護師」であれば医療のことも聞けること、「問題解決のためではない相談」ができることなどに患者にとっての価値があると思われます。
○がん罹患後、休職する際に利用できる給付制度について教えてください。
公的制度として「高額療養費制度(一定額以上の医療費を返金)」「限度額適用認定(上限以上のお金を支払わずに済む)」「傷病手当金(会社員が病気で働けない1年6か月のあいだ給付)」などがありますが、知らない人も多いです。自分が使える制度を調べるにはNPO法人「がんと暮らしを考える会」が運営する「がん制度ドック」という便利なサイトがあります。https://www.ganseido.com/
○自営業の方が生活や養育費に困らないように受けられる支援にはどのようなものがありますか?
これもいろいろな制度があります。最寄りの社会福祉協議会などに「困っているので助けてください」と尋ねましょう。相手は専門家なので素直に「オープンクエスチョン」で問い掛けることがポイントです。
○制度はあっても実際にその制度は使えていますか?
企業などでも「制度」があるにも関わらず実際には使われて
いないことも多いです。会社であれば人事や労務担当に相談
してみましょう。たとえば「時差出勤」などの制度はもともとがん患者が対象ではなくても「運用」によって適用できる場合もあります。まず「声を上げる」ことがたいせつです。
○再就職するとき、「がんであること」を公表することで会社からデメリットを受けることはないでしょうか?
その前に「なぜあなたががんであることを就職先に伝えようと考えているのか」をしっかりまとめておくことです。病気に関しては個人情報保護法の中でも「要配慮個人情報」として不当な差別や偏見や不利益な扱いを受けないための規制対象となります。ですから伝える場合はどのような扱いを受けたくないかを考えて公表をするのかをしっかり伝えましょう。
○がん患者さんの転職・再就職において採用担当者は何を見ていますか? 応募の準備についてどのような
アドバイスをすればよいでしょうか?
採用担当者はつねに「その人が仕事にもっているビジョン」「(採用したら)職場でどんな活躍をしてくれるか」「人柄」などを見ています。それはがん患者であろうがなかろうが同じです。ですから応募前にはしっかり自分のキャリアの棚卸をして「自分は何をしたいのか、できるのか」「採用されたら〇年後にはどうなっていたいのか」などをしっかり考えるようアドバイスされるのがよいです。
●「どんな知識が役に立つかがわかった」と参加者の感想
参加者からは「利用できる公的な制度などの知識を知っておくとより対話に使いやすいことがわかった」「コーチングやカウンセリングの技法を対話のケースに応じて使い分けられればよいと思った」「まずは自分の職場の就業規則を読んで理解することからはじめようと思う」などさまざまな感想がありました。
がん患者の就労支援をするには、就職前後のお金のことや面接への準備などについて身の回りにある制度や社会資源、一般的な就業規則の知識をもつことで相談者の疑問に答えやすくなります。現在の職場でもそういった視点で広く関心をもつことが活動の役に立つことがわかったイベントだったと思いました。
(記:Tomopiiaアドバイザー 松井貴彦)
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