【対談】Tomopiiaの未来を探求する──社会に必要な「新しい看護の役割」のヒントに
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【対談】Tomopiiaの未来を探求する──社会に必要な「新しい看護の役割」のヒントに

Updated: Aug 29, 2023


Tomopiia(トモピィア)は、がんと共に生きる方の「不安」や「孤独」の解消を担当看護師との対話を通して個別にサポートするサービスです。このサービスの開発から生まれた、『SNS看護』という新しい看護の形を提案しています。


本記事では、超高齢社会を背景に看護師はどうあるべきかを考え、Tomopiiaの対話の価値や可能性について探求していきます。


お話を伺うのは、東京医療保健大学副学長・看護学科学科長の坂本先生です。数多くの講演やシンポジウムの登壇実績があり、これからの看護の在り方、役割について専門的な知見を有する識者として、Tomopiiaでも研修講師として尽力いただいています。


TomopiiaのCNO(Chief Nurse Officer)十枝内を聞き手に、SNS看護の可能性を紐解きました。


 

坂本 すが(さかもと すが)先生 プロフィール 和歌山県出身。昭和47年和歌山県立高等看護学校保健助産学部卒業。平成19年埼玉大学f大学院経済科学研究科博


士課程修了。昭和51年関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)入職。同産婦人科病棟婦長などを経て、平成9年〜平成18年看護部長を務める。平成18年東京医療保健大学看護学科学科長・教授就任。平成21年中央社会保険医療協議会専門委員。平成23年6月〜平成29年6月、公益社団法人日本看護協会会長。平成29年6月より現職(東京医療保健大学副学長・看護学科学科長)。令和3年3月〜令和5年3月日本看護管理学会理事長、令和5年6月より地方独立行政法人東京都立病院機構評価委員を務める。

 



超高齢社会で求められる、看護師の新たな役割

十枝内:本日はよろしくお願いします。今回はテーマを2本立てで用意し、前編では「看護の未来」、後編では「SNS看護の可能性」について読者の皆さんに対談内容をお届けしたいと思っています。


まずは前編のテーマ「看護の未来」についてお話を伺います。これからの時代、看護師にはどういったことが求められると先生はお考えでしょうか?


坂本:まず考えるべきは、私たちが今迎えようとしている時代は「どんな時代なのか?」を定義することだと思うんですね。そこで日本国内に目を向けた時、まさに起こっている現象として挙げられるのが「超高齢社会」と「少子化」の2つです。


それに対して国がどのような対策を立てたのかというと、介護保険など施策はさまざまあるものの、大きな枠組みとしては「地域のみんなで支えあっていきましょう。」という方針だったわけです。


なぜなら、患者全員を受け入れるだけの余裕が、病院側になくなりつつあるからです。仮に入院できても、病院では行動の範囲が決められているため、高齢者はADLが低下し、体が動かなくなってしまいます。


そう考えていくと、「高齢者の方々は、どこで暮らせばいいの?」という疑問に当然ぶつかります。これは自分自身に置き換えればわかると思いますが、自分が生まれ育った場所、ずっと住み続けた場所に帰りたいと思うはずなんです。


日本は先進国の中で、一番最初に超高齢社会へ突入した国です。介護保険を作った理由もそうですが、もはや病院を頼りにすることが難しくなってしまった。加えて、高齢者の多くは慢性的に経過する病気を抱えています。生活習慣病などが悪化して亡くなるパターンが6割に及ぶのではと言われているんです。そういった状況にあるにもかかわらず、入院することはできない。どうサポートするのかと考えた結果が、病院だけでなく地域の施設や医療・介護に携わる多職種が協力して、高齢者や病気を患っている方をみていきましょう、ということだったわけです。


2020年に始まったコロナ禍では、急性期の患者さんが病院にみてもらいたくてもみてもらえない状況が続きました。自宅やホテルで待機せざるを得なかったニュースの光景はまだ記憶に新しいと思います。


急性期であれば入退院のサイクルも比較的短くなりますが、慢性的に経過する人たちが大半を占める社会になった時、病院の機能だけでは限界があります。


そこで国は医療体制を整えて、急性期と慢性期、そして療養型のモデルを作ろうということになりました。在宅の方々には訪問看護で対応していくわけです。


この地域包括ケアシステムが実現した未来こそが「新しい時代」であり、そこでは看護にも新たな役割が求められるはずです。


社会のニーズに応じて、自ら考えて動ける看護師がこれからの時代に必要とされる

十枝内:改めてお聞きしたいのですが、新しい時代を迎える中で、看護師に今後求められる役割にはどのようなものがあるとお考えでしょうか?


坂本:結論からお伝えすると、病院の中だけでなく、地域のあらゆる場で人々の医療と生活を支える役割が期待されるのではと考えています。


この考えの背景を説明すると、まず「地域包括ケアシステム」を目指すことで本当にすべてをカバーできるのかという疑問が私の中にあるんです。正直なところ、まだまだ未成熟なシステムのように思えます。


私が日本看護協会で『看護の将来ビジョン』を作成した際には、住み慣れた地域で最後まで暮らし続けたいという人々のニーズに対し、それを看護でどう支えるのか、という方向性を示しました。


私は、超高齢社会に突入した日本においては「病院向けの研修だけでは不十分だ」と考えるようになり、この『看護の将来ビジョン』を作ることにしました。

その内容は、要は「生活支援が重要になりますよ」ということなんです。それも病気を抱えている方のための生活支援を指しています。訪問看護をしたり、時々は病院も利用しながらサポートをしましょう、と。


看護師は診療補助と生活支援の両方を担える専門職のため、果たせる役割は非常に大きいと考えています。ただ、統計的に訪問看護師の割合は少ないとされていて、全看護師の4〜7%程度しかいないとされています。



患者さんには医療的なケアのほかに生活支援も必要である以上、それらを病院だけでみていきましょうというのは無理がありますよね。課題は明らかなので、地域の各所でそれぞれ奮闘はあるものの、正直まだ道半ばだと捉えています。


ただもう1点、意識しなければいけない箇所があります。それは「看護師であれば誰でも大丈夫なのか?」ということです。


実は看護師は生活支援の技能も持ち合わせているとお伝えしたものの、これまでその範囲はあくまで「病院の中での生活支援」に限られていました。


地域社会に出ていった時に、すべての看護師が地域の人々のあらゆる生活支援ニーズに柔軟に対応できるかというと、そうとは言い切れません。


つまり結論でお伝えした「医療+生活」の支援に加えて、自分の頭で考えて臨機応変に動ける看護師であることが求められるということです。


「言われたことをちゃんとやる」というのも素晴らしいことですが、これからの時代という視点で考えるのであれば、民間も含め必要な医療サービスなどを自ら采配できるような看護師が生活支援に役立つのではと考えています。


これは言うほど単純な話ではなく、社会背景や変化もすべて含めて考えられる力が必要になってくるんですね。「私はこんな看護をやりたい」「こういう看護師になりたい」という、自分の目線だけを見ていては不十分です。


社会から求められていることは何か、ニーズは何か。そこを捉え、そこに自分の役割を当てはめて考えることができるかどうか。そこが問われてくるのではと思っています。


そこで登場するのが、2015年に開始された特定行為に係る看護師の研修制度(特定行為研修)です。制度の普及に伸び悩みはあるものの、これからの超高齢社会を支える看護師が力をつける上では重要な取り組みになると考えています。


十枝内:社会の構造変化に合わせてニーズも変わる、というお話がありました。その意味ではTomopiiaが展開する「SNS看護」も社会からの需要があるサービスだと考えています。


ここまで先生がおっしゃった内容を、Tomopiiaで活躍する看護師、これからご一緒することになるかもしれない看護師の方には知ってほしいなと思いました。


社会の大きな変化の中で「対話」が再び大きな役割を担うことに

坂本:先ほどTomopiiaの「SNS看護」というサービスのお話が出てきました。それに関連するところで言うと、私は今、看護管理(看護マネジメント)に関する仕事にも携わっているんですね。


日本看護協会では地域包括ケア時代の病院看護管理者が獲得すべき能力を6つ掲げていて、それぞれ「組織管理能力」「質管理能力」「人材育成能力」「危機管理能力」「政策立案能力」「創造する能力」とされています。



私は7つめの能力として、対話によって人間の心に触れるようなスキルが今後絶対に必要になると考えています。


まさにその領域をTomopiiaが「SNS看護」を広げていくプロセスで実現するんじゃないかなと期待も高まるところです。


少し話は変わりますが、2022年の冬頃から世界的にChatGPTをはじめとして生成AIの話題などで持ち切りになりました。


こういったデジタルやITの勢いというのは止まりませんよね。そうなった時に人の支えとなるのは、もはやシステムどうこうの話ではなく、人と人との対話なんじゃないかと思っているんです。


団塊の世代が働き盛りだった頃の日本では当たり前の風景で、仕事後の飲み会なども頻繁に行われていました。当時はリモートワークも当然普及していませんから、みんな会社に出勤して、職場でおしゃべりすることも日常の景色でした。


それがもしかすると、これからの時代はもう一度、そういったコミュニケーションの在り方が求められるような気がしているんです。病院の看護師も、マニュアル通りに必死になって仕事をしてきた看護師も、おしゃべりの時間を取り入れたほうが大切になるかもしれない。


ただその時にすごく重要なのが、患者さんが話したい時に聞いてくれる存在であるべき、ということです。いつでも話を聞いてくれる看護師ではなく、患者さん側から言いたいこと、話したいことがある時に、話を聞いてくれることが大事。


十枝内:患者さんと看護師の関係性の中で、おしゃべりも含めたコミュニケーションが大事だというお話をしてくださったと思うのですが、実はTomopiiaの研修を受けにきた看護師も対話をする場というのをすごく求めていることに最近気づいたんです。


先ほど生成AIの話があったように、チャットボットで自動的に返事が返ってくること自体は便利な一方で、やはり生の人間の反応や声というのが、すごく癒しになったり励みになったりもすると思っています。


研修の様子を見ていて感じたのが、看護師も「私はこんな想いで看護をしているんです」と誰かに聞いてもらいたいんだろうなということ。


Tomopiiaが患者さんと看護師を対話でつなぐ一方で、看護師同士もTomopiiaの研修を通してコミュニケーションの機会を増やしていく。これによって看護業界全体の活性化につながるのではと予感しています。


坂本:今のお話を聞いて、じゃあなぜ人は対話をしたいんだろうって考えたんですね。おそらく論理だけでは測れない感情や感覚、感性的なものが関係していると思うのですが。


そういったことを含めて、患者さんを慮る力が看護師にはあるような気がするんですね。医師はロジカルに病気と向き合うことに対し、看護師は「人」をみていると言いますか。


「何とかしてその人の抱えていることをわかってあげられたら」という気持ちがいつもあるのが看護師の特徴であって、それ自体が大きな価値のように感じられます。


看護師のキャリアが多様化する今、ジェネラリストとして活躍できる範囲は広がっている

十枝内:今回は「看護の未来」というテーマでお話をしてきましたが、最後にキャリアに関するお話もできればと思っています。


坂本:キャリアの話をすると、専門看護師や認定看護師といったスペシャリスト路線の話題がいつも中心に上がってくるなと感じるのですが、実際に世の中の看護師を見渡してみると、ほとんどが何でも幅広くこなせるジェネラリストだと思うんです。


では、ジェネラリストはどのように技術や専門性を高めるべきかというと、何かの認定制度などを受ける方法はありつつも、ほかにも異なる腕の磨き方があるのではと思っています。


その方法として、Tomopiiaの「SNS看護」のスキルを身につけることは、1つの手段なのではと私は思うんですね。


興味深い話がありまして、看護学科の卒業生で起業した方が「患者さんが行きたいところ、たとえば友人との食事や海外旅行などにも付き添ってサポートします」っていうサービスを始めたんですね。


私はこれを、多様なサービスの可能性であり、多様なキャリアの可能性でもあると受け止めていまして。今この時代は、看護師のキャリアの形成も含めてまったくと言って良いほど決まったルールはありません。


何度かお伝えしているように、地域包括ケアシステムが未成熟である以上、そこに多くのニッチな需要が存在するわけで、そういったあらゆる可能性を含めて、キャリアの視点を幅広く持つと良いのではないでしょうか。


十枝内:特定行為研修が開始された時に、私なんかは「看護師の資格だけじゃダメなのか……」と落ち込んだことがあったんですよね。もっともっと上位の資格を取っていかなければ、看護師として生き残れないんじゃないかってその時は考えていました。


病院で管理者をしていた当時、スタッフに看護を語ってもらう機会があったのですが、多くの看護師が患者さんの『あなたで良かった』という言葉に奮起したと聞きました。看護師であること、それだけで、もう十分に価値があるんだと感じた出来事です。


だからこそ、ジェネラリストの看護師の可能性は本人たちが思っている以上に実は大きくて、役に立てること、貢献できることがたくさんあると思っています。


その中の1つにTomopiiaの「SNS看護」も入っていて、患者さんと一緒に対話をする。相手が看護師であるという事に価値が生まれるのですね。


なので最後にお伝えしたいのが、まずは自分が持つ看護師の資格がいかに尊いものであるのかを再認識することが大切で、その上でもっともっと誇りを持って活躍してほしいなと思っています。


※次の後編では、「SNS看護の可能性」についてお伝えします。



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